2024年2月29日、東京・新宿バルト9において劇場版『SHIROBAKO』特別記念上映会「変な話、1周年記念舞台挨拶」が開催されました。
実は劇場版『SHIROBAKO』の舞台挨拶は、4年前の2020年2月29日の公開と同時に行われる予定でした。
しかし新型コロナウイルス感染症が拡大中であり上映そのものも危ぶまれる中、舞台挨拶を行うことは困難と判断。残念ながら公開3日前の2月26日に中止が決定されました。
ですがこれまで多くのファンに支えられてきた『SHIROBAKO』。
劇場公開から4年。閏年としては一周年となるこの日、ついにファン、そしてキャスト、スタッフが心待ちにしていた上映会&舞台挨拶が開催されました。
会場に集まったファンの方々は、まずスクリーンで劇場版『SHIROBAKO』を堪能。
その後はいよいよ待望の舞台挨拶に。
司会を務める永谷敬之プロデューサー。
続いて監督の水島努さん、宮森あおい役の木村珠莉さん、安原絵麻役の佳村はるかさん、坂木しずか役の千菅春香さん、藤堂美沙役の髙野麻美さん、今井みどり役の大和田仁美さん、宮井楓役の佐倉綾音さんと続き、計8人でのクロストークが始まりました。
こうして皆さんの声が聞けるっていいですね。今日は監督、キャスト揃っての舞台挨拶ができることをとても嬉しく思っています。最後まで楽しんでください。(木村さん)
花粉症で声が万策尽きているんですけれども(苦笑)。こんなにたくさんのファンの皆さんで満員になった映画館を見られて本当に嬉しいです。今日は皆さんで『SHIROBAKO』の思い出を語っていきましょう。(佳村さん)
こうやって皆さんの前でお話しするのは4年、もとい閏年1年越し。この光景を見るととても嬉しい気持ちになります。今日は時間いっぱい皆さんとこの気持ちをシェアしていけたら嬉しいです。(千菅さん)
1年前は叶わなかった舞台挨拶が実現できて、また当時『SHIROBAKO』のイベントにも来てくださったファンの方もお見かけできて、とても嬉しい気持ちです。今日はたくさん『SHIROBAKO』の話をして楽しみたいと思います。(髙野さん)
公開当時は舞台挨拶ができず、とても悔しい思いをしましたが、やっと皆さんの前に立つことができました。本当に今日という日を迎えられて嬉しいです。今日はたくさん『SHIROBAKO』の愛を語り尽くしたいと思います。(大和田さん)
取材などで『SHIROBAKO』のことをお話しする機会はあったのですが、ファンの皆さんを前にしてのイベントは初めて。どんな空気感なのか楽しみにしております。(佐倉さん)
などの挨拶のあとは、劇場版の制作にまつわる話題に。
まずは劇場版のアフレコを振り返ってのトーク。
劇場版、舞茸さん*とりーちゃんがすごくいい関係を築いていたじゃないですか!特にキャッチボールの場面はとても素敵なシーンだなって印象に残っています。(木村さん)
(注釈)*舞茸さん…舞茸しめじ(CV:興津和幸さん)。シナリオライターで今井みどり(りーちゃん)の師匠。
アフレコ現場では皆が「しめじさんとりーちゃんいい感じだよね。実はアヤシイ関係ではないか!?」とすごい盛り上がっていたんです。でも今井みどり役の私としては最初に台本を読んだ時も全然そんな気はなくて、演じてる時もそうは感じなかったんです。でも今回のイベントの前にあらためて見直したら「アレ!? ちょっとアヤシイかもしれない」と(笑)。もしかしたら2人は10年後くらいに結婚しているのかもしれないと思ったのですが、どうなんでしょうか監督!(大和田さん)
恋愛関係は基本的にずっと避けてきた部分なんです。なるべく触れないように触れないようにって。唯一結婚させたのが宮森のお姉さん(宮森かおり/CV:森谷里美)。それでちょっとお茶を濁したつもりだったのですが、アフレコの時にものすごく糾弾されまして(笑)。でも実際に難しいんですよね。『SHIROBAKO』はお仕事アニメではあるけれど、萌えアニメ的な部分もある。勝手に結婚させると怒られるんですよ(笑)。でも舞茸がみどりに告白してフラれたほうが面白くないですか? それで舞茸が尖ったシナリオを書き出したらさらに面白いですよね。(水島監督)
私は『なめろうマーチ』が印象に残っています。実は収録当日、水島監督から「音程が変わります」と。皆で「ずんずんナメナメずんずんナメナメ♪」ってすごい練習してた思い出があります。ただ出来上がった映像を見ると少し狂気ではありましたが(笑)、絵麻たちが楽器を持って踊っていたりして、とても楽しいシーンだなって。(佳村さん)
最後のフレーズって「ずんなめずんずんずん、なめ~!」ですよね。でもどうして音程が変わったのか全然覚えてないです(笑)。あの時はギリギリまで歌詞を書いていて、音楽を発注する時間もなかった。だからもうクラシック(シューベルト/軍隊行進曲)を使おうということになりました。無料ですしね。(水島監督)
劇場版では自分が音楽プロデューサーをさせてもらっていて、音楽周りを監督とやらせてもらったんですが、確かにバタバタでしたよね。それこそ本編の中で起こっているようなことが音楽の現場でも起こっているみたいな(笑)。劇場版『SHIROBAKO』は絵コンテ全部ありましたっけ?(永谷さん)
いやないですね。なるべくその話には触れないようにと思っていたんですけど(笑)。本当は絵コンテが全部あがってから音楽の打ち合わせをします。「このシーン。カットいくつからいくつまではこの音楽を入れましょう」と。でも劇場版では絵コンテがないので「こんな感じのシーンが多分あります」みたいな感じで発注しました。(水島監督)
音楽を担当されたのはテレビシリーズに続いて浜口(史郎)*さんだったのでツーカーな感じで問題なく進められました。(永谷さん)
(注釈)*浜口史郎 … 『SHIROBAKO』テレビシリーズから音楽を担当。ピーエーワークス作品では『花咲くいろは』『TARI TARI』などを、水島監督作品では『ガールズ&パンツァー』などで音楽を手がける。
唯一フィルムスコアだったシーンがあって、それが劇中劇の『空中強襲揚陸艦SIVA』。『SIVA』のシーンは絵コンテが出来上がってから音楽を全部作ってもらっているので、ピッタリ合っています。(水島監督)
私は水島監督が「なめろうってこんな声で、こういうキャラだったんですね」とおっしゃっていたのが印象に残っています。(木村さん)
実は全然イメージが違いました。でもまあこうしたいならいいかなって(笑)。(水島監督)
あのシーン走り回る男の子たちもいいですよね。子どもたちの声はいろいろなキャストが担当したのですが、特に新川奈緒役の日野まりさんがアフレコブースの中を走り回るくらいの感じで悪ガキを演じていたのも印象深いです。(千菅さん)
私は大勢でアフレコをしたことが印象に残っています。コロナ禍を経て、今ではあんなに大人数で収録することはもうないですし、当時でも『SHIROBAKO』は登場人物が多かった。スタッフさんがお昼ご飯用にデパ地下でたくさんの種類のお弁当を買ってきていただいたのも思い出です(笑)。(髙野さん)
アフレコの思い出と言えば、これはテレビシリーズの時からですが、“誰推し”かという話題はずっとしていましたよね。特に劇場版になって印象が変わったキャラクターもいましたから。各々が劇場版から参加された佐倉さんに推しのプレゼンをして「で、佐倉さんは誰がいいですか!?」と(笑)(大和田さん)
そうでした! 私は編集の佐倉(良樹/CV:高梨謙吾)さん推しです。ただ見返して思ったのが、セリフの少ない順からボロが出てないだけなんじゃないか…って(笑)。あと佐倉さんの隣にいたマッシュボブの男の子。ああいう人アニメ業界にたまにいますよね。謎のリアリティを感じました。(佐倉さん)
などなど、アフレコ当時の思い出話に花が咲きました。このあと各々が佐倉さんに誰をプレゼンしたのかという話題になりましたが、何故か遠藤(亮介)の妻・麻佑美の離婚説が出るなど一番の盛り上がりに。
さらにそれぞれ劇場版で役を演じてみての感想を、
テレビシリーズは宮森さんをはじめ皆が明るい雰囲気で終わりましたが、劇場版では『タイムヒポポタマス』のことがあって、暗い雰囲気からスタートする。自分としては明るくイキイキしていて欲しかったですが、くすぶっている感じもリアリティがあるなって。上手くいかないこともあるし、どうにかしたいのだけどできない。でもそこで諦めるのではなく、劇場版の仕事を「やります!」と言える前向きさを失っていなかった。とても宮森さんらしく演じていて嬉しかったです。ミムジーとロロに関しては、どうしちゃったのロロ〜って思いました(泣)。(木村さん)
絵麻ちゃんは、テレビシリーズだと「私、アニメーターでやっていけるかも」と明るいところで終わりました。劇場版でもおいちゃん(宮森あおい)に対してしっかり話していたり、久乃木(愛/CV:井澤詩織さん)さんと明るく食卓を囲んだり、成長したんだなと思っていたんです。でもそう上手くはいかなかった。作画監督というポジションで、かつての先輩である小笠原(綸子/CV:茅野愛衣)さんに指示を出す側になる。でも演出の円(宏則/CV:斎藤寛仁さ)んから「それだけではダメじゃないですか」と厳しい言葉を受けた時、ダメという言葉に対して自分がダメなんだと捉えてしまう。ステップアップはしているけどもマイナス思考なところは直ってない。そういう少し視野の狭い部分はテレビシリーズの頃の絵麻ちゃんっぽくて、絵麻の愛おしいところでもあるなって。劇場版ではそれを乗り越えて、絵麻のさらなる成長を感じることができて嬉しかったです。でももし続編があったらまたいろいろ悩んでしまうんだろうなって思います。(佳村さん)
アニメ業界を描いている『SHIROBAKO』の中でも、ずかちゃん(坂木しずか)は声優。テレビシリーズの時は新人声優で、実際に演じる私も新人でした。当時は「それってつまり…」と謎の禅問答みたいになってしまったのを覚えています。でも小難しいことを考えても器用なことができるわけでもなく、毎回何とか乗り越えていった感じでした。劇場版になって、ずかちゃんは少し仕事が増えている。それが自分の一番望んでいるような仕事ではないにしろ、キャリアとしては確実に前に進んでいる。それを演じる自分もその差を出せるようにといろいろ考えましたが、やっぱり頑張るしかないなって。そうしたら縦尾まり役の横尾まりさんが「テレビシリーズの時とまた変わったね」と声を掛けてくださって。ずかちゃんを演じることで声優としての自分のお芝居を定点観測できたような感じでとても貴重なお仕事でした。(千菅さん)
美沙はテレビシリーズの時は自分のやりたいことをするために悩みながらも大きな会社を辞めて、自分の行きたい道に進む。ある意味正しくある子という印象がありました。ですが劇場版で演じてみて、美沙って思い込み激しいキャラクターなのかもと。もうこれ以上仕事は請けられないとなった時「いや、いけます。私ショートスリーパーなんで」って。多分絵麻と一緒で美沙も実は視野が狭くて、人間としてまだまだ未熟な面がある子なんだろうなというのが印象的でした。メインの5人、というか『SHIROBAKO』の登場人物はほとんどがそうかもしれないですけど、人間らしい未熟な面がある人たち。そんなキャラクターたちがジタバタしていく物語なのかなと。私、髙野自身も未熟だからこそ、そういう物語に助けられるというか、未熟だからこそ頑張ろうって思える。そんな作品に参加できてとても嬉しかったです。(髙野さん)
劇場版でみどりを演じる際、実は不安もあったんです。でも現場の空気が本当に心地良くて。珠莉ちゃんが引っ張ってくれながら、とてもチームワークがいい熱気のある現場。不安もどこかに飛んで、すぐにみどりに戻ることができました。テレビシリーズの時は、先輩たちがすでにアニメ業界で働いていて、少し焦りながらもチャンスがあれば食らいついていきます! みたいな前向きな感じでした。でも劇場版では落ち着いたというか、ちゃんと経験値を積んだ落ち着き、冷静さがあって、それが新鮮で面白かったです。先ほども話題に出ていた、しめじとみどりのキャッチボールのシーンも、あの2人だから成立していた。しかもみどりは臆することなくワードを投げかけていて、そこに成長を感じました。しかも最終的に「師匠じゃない、商売敵だ」と言ってもらえたのもすごく嬉しかったですね。みどりはこれからもいろいろ悩みながら、脚本家として進んでいくんだろうなって思えた劇場版でした。あ、話しながら「しめじ」って呼んじゃった(笑)。(大和田さん)
『SHIROBAKO』は声優業界でも話題になっていて、アフレコ現場でも「実は私がモデルなんだよね」と話している方がいたり、何だか楽しそうだなと思っていました。テレビシリーズは俯瞰して見ていたのですが、劇場版で宮井を演じるとなった時は少し不安というか、実はあの頃、宮井のようなお姉さんキャラを演じる機会があまりなかったんです。で、実際に脚本を読んで見るとああいうキャラ。スタッフさんは私にどういうイメージを抱いているのかな? って思いました(笑)。でもきっとやりきってくれる人を探してたんじゃないかな、と思い、それならストレス発散して帰るか! と。アフレコは非常に楽しかったです。ただ1箇所、後半に契約書を読み上げる長台詞のシーンがあるのですが、当時の自分には結構荷が重くて。契約書なんて見たことはあまりないし、どういう風に読み上げればいいんだろうと緊張していました。ですが、テレビシリーズから続く現場の暖かい空気感、その和気藹々さに混ぜてもらい、皆さんが緊張を解きほぐしてくださったので無事乗り切れましたね。(佐倉さん)
という回答に。また佐倉さんからは、
ちなみに水島さんはいろいろな作品を手掛けられていますが、私テレビシリーズではなく劇場版でしか呼んでいただけないのは、どういうことなんでしょうか?(佐倉さん)
という質問も。
それに対して水島監督や永谷さんは、
まあいろんな都合ってものがありますから(笑)。でも宮井、すごくよかったですよ。(水島監督)
佐倉さんがおっしゃっていた通り、やりきってほしい感は僕らもありましたね。(永谷さん)
(後編へ続く)